杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

2022-08-01から1ヶ月間の記事一覧

人間到る処青山有り

人間どこで死んでも骨を埋める場所くらいはあるのだから、志があるなら故郷を出て心おきなく活動するべき、という意味です。青山は「せいざん」と読み、骨を埋められる場所、という意味でしょうか。 吉田尚記『没頭力』(太田出版、2018年)に書いてあった言…

己に如かざる者を友とするなかれ

意識が合わない人といるのは苦痛 自分より劣った者を友とするべきではない、という意味です。『論語』の言葉らしい。最近知りました。この場合の「劣る」は能力や財力についてではなく、志のことを指しているそうです。 「類は友を呼ぶ」という言葉のとおり…

自我の重さ

コミュ障とワナビ 吉田尚記『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版、2015年)を読んでいます。同じ著者の『没頭力』(太田出版、2018年)が面白くてためになったので手に取りました。 本書はコミュニケーション障害、いわゆる「コミュ障」であ…

今村昌弘『屍人荘の殺人』

ページをめくらせる力 今村昌弘『屍人荘の殺人』(創元推理文庫、2019年)を読みました。 本作は第27回鮎川哲也賞受賞作(2017年)で、著者はこの作品でデビュー。評判が広がってベストセラーになり、「このミステリーがすごい!」2018年版国内編第1位、「週…

映画『耳をすませば』を観た。

「カントリー・ロード」がいい 近藤喜文監督の映画『耳をすませば』(1995年)を久しぶりに観ました。最初に観たのは公開された1995年で、もちろん映画館でした。それから何度もテレビ放映され、ときどき観ていました。私自身がこれまでに何度観たかはもう思…

吉田尚記『没頭力』

人生のラスボス 吉田尚記『没頭力』(太田出版、2018年)を読みました。物事に没頭することで、「なんかつまらない」という状態を解決し、充実した人生を送ろう、という主旨です。そのための考え方やコツなどが紹介されています。 著者は「なんかつまらない…

佐伯一麦と西村賢太4

『光の闇』を高評価 昨日に続き、佐伯と西村のことを書きます。 『一私小説書きの日乗 憤怒の章』(角川書店、2013年)の2013年4月28日。 午後十二時起床。入浴。 三時間程を部屋の掃除に費す。 その後、近所の蕎麦屋にて、天丼と冷やしきつねそば。 帰室後…

佐伯一麦と西村賢太3

『還れぬ家』を評価 同じテーマで書いた前回の記事から、西村賢太の『一私小説書きの日乗』シリーズが気になり、読んでいます。 前回は西村が佐伯に言及している箇所を引用しましたが、探すと他にも見つかりました。『一私小説書きの日乗 憤怒の章』(角川書…

難しい漫画3

いずれは破局するかも 野原広子の漫画『離婚してもいいですか?』(KADOKAWA、2014年)を読みました。 私は過去に同じ作者による『消えたママ友』(KADOKAWA、2020年)と『ママ友がこわい』(KADOKAWA、2015年)、そして『妻が口をきいてくれません』(集英…

帰還

近年、私は自己啓発書やビジネス書や健康本の類いを多く読み、そのぶん、小説の読書から遠ざかっていました。完全に断絶してしまったわけではなく、ほそぼそと読み続けてはいましたが、量的にかなり落ちていたのは事実です。自分は実は小説など好きではなか…

ゲーム

全てはゲームか? 吉田尚記『没頭力』(太田出版、2018年)を読んでいて、没頭の定義について書いてありました。次の八つの条件で構成されています。 1 ゴールとルールがはっきりしていて、フィードバックが早いこと2 目の前のことに100%集中していること…

「警鐘」は鳴らない。

人生を変える「警鐘」 ビジネス系ユーチューバーの動画を見ていたら、人生を変える行動を開始するため、その「やる理由」を見つける方法が紹介されていました。 人間、夢や目標を持っていてもなかなか行動に移せず、何かと理由をつけて先延ばしにしがちで、…

“ARTIST WANNABE”

KDP出版開始 宣伝です。このたび、KDPで自作の小説集『藝術青年』を出版しました。 本作は、2020年に小説新人賞に応募し落選した「映画青年」と、2012年に同人誌に発表した「焦げてゆく記憶」を収めた自費出版小説集で、2021年に文学フリマに出品した本の電…

板橋区立郷土資料館【ミニ企画展】コロナを記録する

先日、板橋区立郷土資料館に行き、7月5日から開催している「【ミニ企画展】コロナを記録する」を見ました。 板橋区の各処で行われたコロナ禍への対策を写真とともに記録したものです。取材には郷土資料館の学芸員が当たったらしいですが、コロナ禍という災害…

佐伯一麦と西村賢太2

『一私小説書きの日乗』と佐伯一麦 購読しているブログに佐伯一麦と西村賢太に関する記事があり、二人の関係(というより、西村が佐伯をどう思っているか)について書かれていたので、西村の『一私小説書きの日乗』シリーズを手に取りました。 私は佐伯と西…

板橋区立郷土資料館 第20回板橋区伝統工芸展「染と織-真田紐・江戸小紋・江戸手描友禅-」

脱サラ職人 板橋区立郷土資料館に行き、7月9日から開催されている第20回板橋区伝統工芸展「染と織-真田紐・江戸小紋・江戸手描友禅-」を見ました。 板橋区伝統工芸展は、1995年に初めて開催されたもの。区内在住の職人などの協力を得て、その技術や作品を紹…

今年の盆休みは、東京から一歩も出ません。 まったく出掛けないわけではないですが、東京を出てどこか遠方へ行くことは考えていません。コロナ禍が油断できない状況でもあるし、何よりこの暑さが酷く、アクティブになるより巣ごもりして英気を養い、ライフワ…

「TSUTAYA6時間立ち尽くし事件」

意識高い系は要注意 何がきっかけで知ったのか忘れてしまいましたが、吉田尚記『没頭力』(太田出版、2018年)に興味をもち、いま読んでいます。 サブタイトルは「『なんかつまらない』を解決する技術」。私自身、特に日常生活で「なんかつまらない」と感じ…

HSPに良い生活習慣

イルセ・サン『鈍感な世界に生きる敏感な人たち』(枇谷玲子訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2016年)の第4章「『敏感な自分』とうまく付きあうには」に、「HSPの能力を楽しむ機会をつくる」という節があります。HSPが、その敏感さを活かして感じ取れ…

ゴールドラッシュ

「インベスターZ」の2巻を読んでいて、アメリカのゴールドラッシュについて描かれているところがあり、面白かったです。 多くの人が一攫千金を夢見、ツルハシを持って鉱山に出掛けたが、実際に大金を儲けたのは鉱山に行く人たちにツルハシを売った人だったと…

「深い会話」と「表面的な会話」

半分以上の会話は表面的で良い? 先日もこのブログに書いたイルセ・サン『鈍感な世界に生きる敏感な人たち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2016年)ですが、「『鈍感な人たち』とうまく付きあうには」という、タイトルと同じく身も蓋もない書き方の章…

板橋区立熱帯環境植物館「夏休み特別展~熱帯の昆虫と食虫植物~」

板橋区立熱帯環境植物館(グリーンドームねったいかん)で7月12日から開催している「夏休み特別展~熱帯の昆虫と食虫植物~」を見てきました。 熱帯に生息する昆虫の生体と標本、また食虫植物を展示する毎年恒例の企画展です。恐らく私は毎年見ていますが、…

鈍感な人たち

鈍感さは必要 イルセ・サン『鈍感な世界に生きる敏感な人たち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2016年)は、HSPやそれに近い気質を持つ人々、またその家族や職場の仲間やHSP診療をしている医師およびカウンセラーを対象とした本です。HSPの長所や可能…

決断雑感

良くないのは中途半端 三田紀房『インベスターZ』5巻(講談社、2014年)に、スティーブ・ジョブズの言葉「何をしてきたかと同じくらい、何をしてこなかったかを誇りたい」が出てきて、決断とは「切って離す」ということだと述べられています。 「“何をするか…

「会社はあなたを助けてくれません」

組織と人間の関係 井上智介『この会社ムリと思いながら辞められないあなたへ』(WAVE出版、2021年)を読みました。著者は産業医、精神科医、健診医で、多くの会社員や患者を診てきた経験から、何らかの不安要素がネックとなって辞めたい会社を辞められない読…

西村賢太と葛山久子

作家としての徹底性 「文學界」7月号を図書館で借り、西村賢太の特集を読んでいます。 葛山久子の「親愛なる西村さんへ」は、長篇『雨滴は続く』(文藝春秋、2022年)に出てくる実在の新聞記者が、匿名を条件に発表した手記です。私は『雨滴は続く』を読んで…

気と錯覚

思い込みではないか? 佐伯一麦『Nさんの机で』(田畑書店、2022年)の「お灸」は、たった3ページしかない短い章ですが、佐伯の作品集『光の闇』(扶桑社、2013年)所収の「水色の天井」について触れている箇所があり、興味深いものがあります。 二年前ほど…

佐伯一麦のライター時代

佐伯一麦『Nさんの机で』(田端書店、2022年)には、佐伯が上京後にフリーライター事務所に所属していた時期のことが何度も出てきます。 例えば、宮本輝原作の『泥の河』を撮った小栗康平のインタビューをして、署名記事として発表された、などと書かれてい…

「集中ボーナス」と「トンネリング税」

概念の表現の巧みさ 昨日も記事にしたセンディル・ムッライナタン、エルダー・シャフィール『いつも「時間がない」あなたに』(大田直子訳、早川文庫、2017年)に、面白いフレーズがありました。「集中ボーナス」と「トンネリング税」です。 欠乏は、当人の…

欠乏が次の欠乏を生む

センディル・ムッライナタン、エルダー・シャフィール『いつも「時間がない」あなたに』(大田直子訳、早川文庫、2017年)を読んでいます。サブタイトルは「欠乏の行動経済学」で、お金や時間が足りないと感じると認知能力が落ち、(恐らくは失敗や低評価を…