杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

2021-06-01から1ヶ月間の記事一覧

佐伯琴子『狂歌』

第10回日経小説大賞受賞作の佐伯琴子『狂歌』(日本経済新聞社、2019年)を読んだ。 福岡のフリーペーパーで働く女が、過去に一夜を共にした男に誘われて仮想通貨の取引所の社長になるが、不正を行ったことが明るみに出て閉鎖となる。男は死んだとされるが実…

縁を切る覚悟

TBSのドラマ「ドラゴン桜」は最終回を迎えたが、何回か前は岩崎という、元はバドミントン部のエースだった東大志望生が、日本ユニシスの夏季のバドミントンの練習に参加して東大の勉強がおろそかになってしまい、阿部寛扮する桜木先生から東大受験専門クラス…

板橋区立熱帯環境植物館「アマゾン展」

6月1日から27日まで開催していた板橋区立熱帯環境植物館「アマゾン展」。 世界最大の河川・アマゾン川の流域に生息する生き物を紹介するミニ展示である。 アマゾン川といえば、幼少期にテレビなどでたまに見て行ってみたいと思ったものだが、大人になってか…

「いつか」は来ない

過去に何回か書いたと思うが、Twitterを見ているとツイッタラーの傾向が大きく二つあることがわかる。一つは、どこかに行ったとか、美味しいものを食べたとか、こんな映画を観たとか、自分が行動した結果を書く人だ。もう一つは、いつかあの国に行きたい、あ…

バロメーターとしての映画

最近気がついたのだが(というか、前から感じてはいたが最近やっと確信した)、映画を観たいと思うかどうかが、私にとって一つのバロメーターになっているのである。何のバロメーターかというと、気持ちや体力に余裕があるかないかのバロメーターである。 映…

「もっと本を読みたい」

ノンフィクション作家の立花隆が死んだ。80歳。私はこの人の『「知」のソフトウェア』(講談社現代新書、1984年)や『青春漂流』(講談社文庫、1988年)などを読んで感銘を受けたが、取材方法や作品には賛否両論あったことも知っている。 朝日新聞6月24日朝…

モノが動いて話が進む

近ごろ『ナニワ金融道』を再読している。前に読んだ時よりめちゃくちゃ面白い。というより、以前の私はお金の教養が低く、この漫画の世界の奥行きをきちんと感じられなかったんだと思う。 文庫版の第一巻で、灰原が、最初は桑田に教わって仕事を覚えるが、社…

佐伯一麦と五万円

山田詠美の対談集『内面のノンフィクション』(福武文庫、1994年)の佐伯一麦との対談「内面のノンフィクション」を読んだ。 初出は「海燕」1991年8月号である。かなり長い対談だが長さを感じない。二人が楽しく話しているのが伝わってくる。 その中に、佐伯…

板橋区立美術館 館蔵品展「はじめまして、かけじくです」

板橋区立美術館で開催中の館蔵品展「はじめまして、かけじくです」を見た。 イタビに足を運んだのはけっこう久しぶりだった。緊急事態宣言の影響で休館が続き、企画展「さまよえる絵筆」が見られなかったのは、残念だった。 本展覧会は、江戸時代の作品を中…

彷徨える飛行機

TBSのドラマ「ドラゴン桜」を毎週見ている。 6月6日の回では、東大を目指す「東大専科」の生徒たちが東大模試を受け、七人中四人が最低の「E判定」だった。桜木先生との約束では「E判定」になって東大に合格する見込みがないと判断されたら「東大専科」をや…

板橋区立郷土資料館 連携協定記念展「渋沢栄一×高島秋帆」

板橋区立郷土資料館で4月24日から6月20日まで開催の連携協定記念展「渋沢栄一×高島秋帆」を見た。 新一万円札の肖像や大河ドラマで話題の渋沢栄一は、板橋区や、高島平の地名の由来となった幕末の砲術家・高島秋帆と少しだけ縁があった。対面はしていないよ…

佐伯一麦と「劇画アリス」

山田詠美の対談集『内面のノンフィクション』(福武文庫、1994年)の佐伯一麦との対談を読むと、二人が「劇画アリス」に寄稿していたことが分かる。「劇画アリス」とはアリス出版が出していた自動販売機専門の劇画誌のことだが、ここに山田は漫画を、佐伯は…

漸加方式

新しい小説に取り組んでいるところだが、それはべつにミステリーではないものの、何かの参考になればとL.トリート編『ミステリーの書き方』(大出健訳、講談社文庫、1998年)をぱらぱら読んでいる。 これはアメリカの売れっ子ミステリー作家たちが、小説の書…

家族は自作を読むか

佐伯一麦と山田詠美の対談「内面のノンフィクション」は、「海燕」1991年8月号に収録された。佐伯が『ア・ルース・ボーイ』で三島賞を受賞した後、「海燕」編集部から対談企画を持ち掛けられ、相手に山田を希望して実現した。私はこのたび、山田の対談集『内…

人生の売却

ふとそんな言葉が頭に浮かんだ。 会社勤めをするとだいたい一週間のうち五日間の日中を会社で過ごすことになるので、それではまるで給料と引き換えに人生の大半を会社に売っているようなものではないか、と思ったのだが、考え直して、会社勤め=人生の売却で…

「お馬鹿さん」の話

前にも書いたが、近くで見ると悲劇だが遠くから見ると喜劇、といったことをチャップリンは言ったらしい。 小説を書いて、主人公の身に起きることを悲劇的に書こうとして失敗する理由の一つは、読者からしたらちっとも悲劇ではない馬鹿らしいことであるのが分…

頑迷な縁者

仕事の関係者や知人や友人といった他人が頑迷固陋であるなら、自分とは合わない人だと考えて無視してしまえばいい。 問題は、自分と浅からぬ縁がある人が頑迷固陋であることで、特に自分に対し小さくはない影響力を持っていて無視するのも難しい場合などは、…

あまのじゃく反応

西脇俊二『繊細な人が快適に暮らすための習慣』(KADOKAWA、2020年)を読んだ。「繊細さん」が話題な中、HSPについて書かれた本が多く出ているが、これもその一環で出た本だろうか。 繊細な人が傷ついたり疲れたりしないようにする「習慣」について書かれた…

都立光が丘公園と都立赤塚公園

先日、久しぶりに練馬区の都立光が丘公園に行ってきた。コロナ禍もあって人がやたら多く、写真を撮るのが憚られたので、撮らなかった。以前撮った入り口付近の「平和への祈り」のみ掲げておく。 もともとこの場所では、1940年に紀元2600年を記念した大緑地計…

モンキーマインド

久賀谷亮『世界のエリートがやっている最高の休息法』(ダイヤモンド社、2016年)を読んだ。内容はタイトルの通りで、ただし休息させようとするのは体よりは脳の方がメインになっている。 架空の登場人物の掛け合いで話が展開し、そのやり取りの中で脳の休息…

エッセンシャル思考

グレッグ・マキューン『エッセンシャル思考』(かんき出版、2014年)を読んだ。 近年、よくビジネス書を読んでいる。自己啓発的なものも含む。学生時代からずっと小説やノンフィクションの類いを読んできたが、自分の仕事や生活や人生のことをもっと具体的に…

運動できないのは辛い…

五月中は公共のスポーツ施設が使えなかったので辛かった。六月に入ったらやっと使える、と思っていたら緊急事態宣言がまた延長して、もうダメである。 公園でも運動はできるが、直射日光を浴びることになるし、他の目的で来ている人も多いしで、私としてはや…

勉強、練習、試合はセットで。

勉強しないことは罪だと思っているほどだが、勉強すりゃいいってもんじゃなく、それを使うことについては練習が不可欠であり、また勉強と練習の成果を実戦で試してみる、つまり試合も必要だろう。勉強、練習、試合。それを繰り返さないことには前進なんてな…

映画『オーシャンズ8』を観た。

2018年公開のアメリカ映画。監督はゲイリー・ロス、主演はサンドラ・ブロック。 面白くない…。 要するに犯罪映画で、スタイリッシュな?女たち8人が華麗に盗みをはたらく。そこにはサンドラ・ブロックの復讐も織り込まれているわけだが、脚本もカメラもまっ…

作家の死後の評価

ある作家がTwitterで、自分が死んだら作品の価値が上がるから残った家族の心配はしていない、などと書いていて、首を傾げた。 新藤兼人の映画『濹東綺譚』に、永井荷風に対し、あなたも芥川のように自殺しなさい、と説教してくる人が出ていたと記憶するが、…

虎の威を借る小説

池井戸潤『金融探偵』(徳間文庫、2007年)の「誰のノート?」と「家計簿の謎」は、画家が残したノートの持ち主は誰か?という謎を解いていくミステリー。それが最初は島崎藤村だということになることもあり、面白かった。藤村が出てこなくても面白かったか…

バルザック「ニュシンゲン銀行」

バルザック「ニュシンゲン銀行」(『バルザック「人間喜劇」セレクション第7巻所収、吉田典子訳、藤原書店、1999年)を読んだ。『ゴリオ爺さん』に出てくるラスティニャックとデルフィーヌの不倫の裏側が分かる小説として、またお金の世界を描いた作品として…

研究は注解を書くこと

白水社のPR誌「白水社の本棚」2021年春号の岡崎武志「愛書狂」は、新潮文庫における谷崎潤一郎作品の細江光による注解の質の高さを紹介している。 「愛書狂」によると、「文庫の注解は労多くしてギャラは少ない」とのこと。とはいえ、私は素人ながら文学研究…

ゴリオとジャン・バルジャン

バルザック「ニュシンゲン銀行」(『バルザック人間喜劇セレクション』第7巻(藤原書店、1999年)所収、吉田典子訳)は、ちと厄介な小説である。その主な語り手であるビジウが、主たる筋とは直接関係ないことをかなり好き勝手にしゃべり散らしているため、小…

40000アクセス突破

先日このブログの累計アクセス数が40000に到達した。前も書いたが、0から10000よりも10000から20000の方が到達期間が短く、30000になるまではもっと、40000突破はさらに短かった。とはいえ、40000アクセスなど人気ブロガーは一日で達成してしまうだろうから…