杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

2021-03-01から1ヶ月間の記事一覧

エミネムの歌みたいだが…

このブログで前に何度も書いたが、物書きの仕事は毎日やらないとダメで、一日でもサボるともうその仕事は手から離れて遠くへ行ってしまう。二日やらなければもう忘れてしまい、三日空くと頭の中はもう完全に別のことで埋まっている。 物書きが取り組む作品は…

佐伯一麦と大庭みな子2

過去の文藝誌を図書館で借り、研究している作家の寄稿や関連記事を見つけてはコピーしている。そんな中、たまに、目当ての記事を探して同年同月の複数の文藝誌をのぞくと、不意に予期していなかった興味深い記事が見つかったりするので、面白いのだが、この…

懐かしい高揚感

先日、予期しなかった休暇があった。意味が分からない人が多いだろうが、ここに詳しくは書かない。 とにかく不意に休暇が訪れたのである。そのことに、最初、ちょっと戸惑った。いつもなら朝から晩まで忙しく働くのだが、唐突に生まれた、まとまった時間をど…

その作品は誰のものか。

ディーン・R・クーンツ『ベストセラー小説の書き方』(大出健訳、朝日文庫、1996年)の第一章は「偉大な名作を書く」というもので、ここでクーンツは「純文学」、いうなれば高尚で藝術的な作品を書こうとする態度を批判している。 また同じ章の中に、テレビ…

佐伯麦男

佐伯一麦はデビュー前に「佐伯麦男」というペンネームを使って小説新人賞に応募していた。佐伯としては、梶井基次郎「檸檬」の主人公が、爆弾に見立てた檸檬を丸善に置いたように、自分自身も文学の世界に爆弾(麦男=ばくだん)を仕掛けるつもりで作品を投…

だから歴史は面白い

猪瀬直樹『昭和16年夏の敗戦』(中公文庫、2020年)を読んでいる。日米開戦前、戦争を始めた場合の戦局のゆくえについて、官民の若いエリートが集まりシミュレーションした「総力戦研究所」の取り組みと、その傍らで進んだ開戦までの経緯を取材した本。総力…

お金のはなし7

両@リベ大学長『本当の自由を手に入れる お金の大学』(朝日新聞出版、2020年)を読んだ。 経済的な自由を手にするために、お金の5つの力(貯める、稼ぐ、増やす、守る、使う)を身につけようという趣旨で、特に、貯める、稼ぐ、増やす、については詳しく述…

レゾンデートル

森稔『ヒルズ 挑戦する都市』(朝日新書、2009年)冒頭は、ハーバードビジネススクールに森稔が招かれ教授や学生とセッションする様子を伝える記事である。これで面白いと感じたのは、学生の質問が学生とは思えないほど具体的かつ鋭いことだ。なんというか、…

時間の停止

先日、ワナビは「自分病」という病に冒された患者ではないか、と書いたが、その症状や障害は、理想と現実のギャップゆえの悶々とした状態の他に「時間の停止」という事象があるのではないかと思った。 自分病患者は、理想の自分を追い求めて現実を彷徨う。自…

自分病

以前このブログで「○○青年」はワナビだと書いたが、「自分病」という病に冒された患者と言い換えることもできるような気がする。セルフイメージが強く、それがなかなか他人に認めてもらえないから悶々、鬱々とする。膨れ上がったセルフイメージが原因なので…

目的と手段を混同しない

佐伯一麦は若い頃、小説家になろうとして「書く仕事」を探し、フリーライター事務所に勤めていた。だが、夜遅く帰った自宅の部屋に置かれた机に書きかけの小説の原稿が積まれているのを見て、自分は小説をやろうとしているんじゃないのか? と考えるに至り、…

明けない夜

明けない夜がある。そんなことを宇佐見りんが言っているようだ。春がこない冬もある、なんて言っている人もいる。 会社で仕事をしていると、明けない夜はない、と言う方がリアリティがある。仕事は時間と共に動いていて、どんなキツい仕事も必ず終わるからだ…

『家族をさがす旅』への共感

町田哲也の『家族をさがす旅』(岩波書店、2019年)は、作家である著者の父が緊急入院したことをきっかけに、著者が父の事績を辿る行動を始めるノンフィクションである。父はかつて岩波映画に勤めていたことがあり、また著者という子をもうける前に他の女と…

佐伯一麦と枇杷の木

岩波書店「図書」867号(2021年3月)冒頭の「読む人・書く人・作る人」は、佐伯一麦が寄稿している。タイトルは「十一年目の枇杷」で、自宅の庭にある枇杷の若木が、十一年目にしてようやく蕾をつけたことを紹介している。 その枇杷は、2010年に木山捷平の子…

映画が好きか?

脚本家でも小説家でも俳優でもいいが、ワナビの特徴だと思われることの一つに、対象を自分のものにできるかどうかにアイデンティティ確立の成否がかかっている、ということがある。つまり、小説家ワナビは小説を読むことがそんなに好きなわけではなく、小説…

言わずに言う

学生時代に書いたシナリオの書籍化に取り組んでいる。当時の作品を読むと、テーマといい技術といい、あまりに未熟でダメだったなぁと恥ずかしくなる。それでいて当時の私は、自分は一流の藝術家になるんだとか考えていたのだから、もう笑うしかない。 中で、…

「繊細さん」雑感

武田友紀『「繊細さん」の本』(飛鳥新社、2018年)を読んだ。かなり話題の本だったこともあり、図書館では100人を超す人が予約をしていたので、借りるまでに時間がかかった。 「繊細さん」とは、HSP(Highly Sensitive Personの略)のことで、生まれつき繊…

妄想と方向性

草薙龍瞬『これも修行のうち 実践!あらゆる悩みに「反応しない」生活』(KADOKAWA、2016年)を読んだ。これは、毎日を楽しく快適に過ごすために、日常生活や仕事の様々なストレスや悩みを受け流せるようアドバイスする本。日頃の悩みを増やさないポイントは…

事上磨練

「じじょうまれん」と読む。最近知った。具体的な行動や実践を通して知識や精神を磨いていくという意味で、陽明学の基本的な考えであるらしい。 ある企業向けの研修講師が使っていたのを見て知ったのだが、ビジネスの世界でこういうのはよく言われるなぁと思…

「書く生活」の難しさ

アニー・ディラード『本を書く』(パピルス、1996年)は、ときどき読み返している本。原題は“THE WRITING LIFE”で、これは「書く生活」といった意味かと思う。タイトルの通り、作家であるアニー・ディラードが、「書く生活」の深奥にあるべき作家の姿勢や覚…

毎日書くこと10

ブログを開設して今日で丸3年である。 これまで毎日、1記事ずつ書き継いで今日に至る。厳密には完全な毎日ではないが、それは24時を過ぎて記事をアップしてしまったりしたからで、その分は後日取り戻しているので継続日数と記事数は同じになっている(ときど…

「誰も傷つけない」

あるお笑い芸人に関する記事で、「誰も傷つけない笑い」というフレーズが出ていた。実際にその芸人がどういう種類の笑いなのかは別として、この「誰も傷つけない笑い」というのが果たしてあり得るのかなと思い、あれこれ考えた。 「笑い」は、その本質がそも…

「社員稼業」

松下幸之助が残した言葉である。たとえ会社勤めであっても、自分自身が「社員」という事業を営む経営者をしているつもりで働けば、自ずと自主性が生まれ、創意工夫もできるようになる、といった意味のようだ。先日、企業研修を手掛ける人の話を聞く機会があ…

入れ子構造

岩波文庫『千一夜物語』(豊島与志雄、渡辺一夫、佐藤正彰、岡部正孝訳、2004年)を毎夜、少しずつ読んでいる。これは、基本的にはシャハリヤール王にシャハラザードが毎夜、物語を聞かせるという内容なのだが、その物語の中にまた物語があり、という入れ子…

あらすじ執筆の効用

小説の構想段階で陥りやすいのが、背景世界の作り込みで、ディテールにはまり込んでしまうことだ。誰もが陥るとは限らないが、かくいう私自身がしばしば陥るのである。 主人公はどこ出身で、その土地にはかつて誰がいて何が起こって、どんな伝説があって、な…

「書いて、書いて、書きまくれ」

ディーン・R・クーンツ『ベストセラー小説の書き方』(大出健訳、朝日文庫、1996年)の第四章「ストーリーラインを組み立てる」に、そういう見出しがある。 その最初は、多くの新人作家が、アイデアが完全に固まるまで机の前に座ってはいけないという考えに…

「読んで、読んで、読みまくれ」

ディーン・R・クーンツ『ベストセラー小説の書き方』(大出健訳、朝日文庫、1996年)の第四章「ストーリーラインを組み立てる」は、そうとはうすうす思っていたが確信まではしていなかったことが書かれている。 「ストーリー・アイデアをみつけるには」とい…

厭世主義者雑感

現在、過去に書いた小説やシナリオの書籍化に取り組んでいる。その過程で過去作を読み返したのだが、この時期の私は間違いなく厭世主義者だったな、しかもかなり中途半端な奴だったな、と思った。 社会には汚いものが多いし、狡い奴も多い。フェアでないこと…

プロット

ディーン・R・クーンツ『ベストセラー小説の書き方』(大出健訳、朝日文庫、1996年)を、特にベストセラーを生み出したくはないが生み出せたらそれはそれで嬉しいな、という気持ちで、ただし小説の書き方本は日常的に読んでいるのでその一環みたいな感じで、…

佐伯一麦と町田哲也

町田哲也『家族をさがす旅』(岩波書店、2019年)は、私は当初、私小説だと思っていたのだが、岩波書店のホームページには「父の緊急入院をきっかけに,異母兄の存在を知らされた著者.現役証券マンによる渾身のノンフィクション.」とある。 岩波映画が出て…