杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

2019-01-01から1年間の記事一覧

自分の企画を動かす。

私は勤め人としてライターをしていて、その経歴はすでに軽く十年を超えている。企画立案から取材、原稿執筆、その後の校正作業に至るまで一通り覚えたという自負はある。印刷用語やデザイン用語の中には知らない言葉も多いが、ライターと呼ばれる人が主に携…

虎ノ門風土記

東京都心では再開発がガンガン進められています。日経BPムック『東京大改造マップ』(2018年)には、東京23区は横浜と合わせて412件もの大規模開発が進められていると書かれています。最近だと、11月1日に「渋谷スクランブルスクエア」が開業したのが記憶に…

創作雑記15 山

本宮ひろ志『天然まんが家』(集英社文庫、2003年)に、こうある。 最近の若いマンガ家の読み切り作品を読んでいると、とにかくストーリーを盛り上げていく山がない。 事件が事件を呼び起こし、どんどん盛り上がって山場を駆け上がっていき、話が終わってい…

島田雅彦と安部公房

島田雅彦『君が異端だった頃』(集英社、2019年)は島田の自伝小説だが、その第四部「文豪列伝」には安部公房が出てくる。 安部の『方舟さくら丸』について、「朝日ジャーナル」からの依頼を受けた島田が書評を書く、というエピソードである。安部は数ある書…

金融小説

池井戸潤『金融探偵』(徳間文庫、2007年)を読んでいる。銀行を辞めた男が銀行や証券会社など金融機関に関わる様々な事件を追究していく話だ。 金融がらみの小説というと、「半沢直樹」シリーズとか池井戸潤の有名作はもちろん、古くは高杉良が書いているし…

昔あるスナックのマスターが、うちでは酔っ払いはお断り、と言っていた。パンチパーマの強面のマスターだったが、物腰はとても柔らかく、というよりとても礼儀正しくて、そのことが逆にマスターが水商売の世界の厳しさをよく知っているのだろうと思わせた。 …

イージーモードという悲劇

島田雅彦の「私小説」だという『君が異端だった頃』(集英社、2019年)を読んで、もしこの小説の内容が事実そのままだとするなら、島田雅彦という人は「自分」というものがないんじゃないか…漠然とそんな風に感じた。 小説は「島田雅彦」が生まれてから、長…

創作雑記14 すべて途中で未完成

小説のことなどよく分かってもいないのにストーリーを練りに練って、文章をやたら彫琢し、また飽かず推敲を繰り返して、挙げ句いつまで経っても作品ができあがらず、不満が募ってついに抛棄してしまったこと…たくさんある。錬磨も彫琢も推敲も「完璧」を期し…

ばてるけれども…

こないだある会社経営者が、地道な営業活動が会社を存続させる上でとても大事だ、と言った上で、その仕事は続けても成果が出にくく、やがてばててしまうから大変だが…といった意味のことを話していた。 その言葉に接した時は、深い感銘を受けた。実力を上げ…

創作雑記13 計画実行は規則正しく

会社勤めをする中でなかなか規則正しい生活を送れないことが、これまで小説の創作が思うように進まなかったことの要因としてある。 これは勤め人をしながら創作をしているワナビの多くが悩む(悩んだことがある)問題ではないかと思う。定時で必ず退勤できる…

鬼を笑わせない。

「来年のことを言うと鬼が笑う」というが、未来の心配ってのはたしかにいくらしてもし尽くせない。結局はその時ごとにベストだと思う選択をしていくしかなくて、もちろん吉と出る場合があれば凶と出ることもあり、縁と同じように、一見したら吉と見えたもの…

作家とライター

ライターという職に就いているため、同業者と接する機会は少なくない。身近なところにもライターはいるし、会ったこともないライターのブログを読むこともある。 こないだ、ある「ライター」のブログを読んだ。記事では、はあちゅうさんが「作家とライターは…

野間文芸新人賞の賞金

佐伯一麦は『ショート・サーキット』(福武書店、1990年)で第12回野間文芸新人賞を受賞した。副賞は100万円だった。 島田雅彦『君が異端だった頃』(集英社、2019年)には、島田が佐伯の受賞後に祝いに駆け付け、新宿で飲んだ様子が記されている。川西蘭も…

意識は高い、行動力は低い。

二十代から自分を磨こうと勉強(読書)はガツガツやってきた。だから青春は不遇だったとは思っているが時間を無駄にしたという思いは総じてない(いや無駄なことも随分やったのだが)。 けれども決定的に不足していたのが行動で、言うなれば私は、意識だけは…

佐伯泰英の「佐伯通信」

先日、本屋で偶然「佐伯通信」というミニチラシを手に取った。このブログで「佐伯」といえば佐伯一麦だが、これは佐伯泰英の方である。 佐伯泰英の新刊予告やエッセイ、編集担当者のコラムなどが掲載された佐伯の「ミニ新聞」である。発行は「佐伯泰英事務所…

自分を論破しろ!

行動を阻害する要因ってさまざまだけど、その多くは「自分」に起因しているように思えてならない。失敗するのが怖い、やりたいけど今はその時期じゃない、会社の仕事とか家庭での役割とか色んな義務があるからちょっと難しい、お金が足りない、などなどなど……

若手作家の集まり「奴会」

佐伯一麦『ショート・サーキット』(講談社文芸文庫、2005年)の二瓶浩明による佐伯年譜には、1985年のところに若手作家の集まり「奴会」について書かれている。 島田雅彦、小林恭二、川西蘭、中沢けい、山田詠美、川村毅など若手作家たちと「奴会」と称した…

勉強は人間の義務

私が小中学校くらいの頃は、勉強に熱心な子供は「ガリ勉」などと言われ冷やかしの対象にされていた。少なくとも「勉強すること」が尊敬の対象になることはなかったと思う。勉強よりも遊ぶことに夢中になっていたし、親や教師からの勉強に関する説教へのアン…

怒りがこみあげて…

四十年も生きていると色んな人に出会う。 その中には自分とまったく感性が合わない人間もいて、顔を見るのも声を聞くのも嫌だ、という奴も少なくない。私は二十代の後半の時期に何人かのそういう奴と出会い、やがて激しく反発して絶縁し、今に至っている。そ…

書かなければ無

現実は容赦なくあなたを追い詰めてくる。あなた自身の年輪の重なりはどうということはないかも知れないが、時間の経過とともに周囲の人や組織の状況が変わり、あなたにさまざまな要請をしてくる。これにあなたは時間と労力を奪われ、あろうことか金も抜き取…

映画『ジュリー&ジュリア』を観た。

最近、『ジュリー&ジュリア』という映画の存在を知り、それがブログをテーマにしたものだというのも知って興味が湧いたので、さっそく観た。 2009年のアメリカ映画。監督・脚本をノーラ・エフロンという人が務めている。主演はメリル・ストリープ、エイミー…

佐伯一麦のインタビュー記事

集英社の「すばる」1991年6月号の「すばる今(imagine)人」に佐伯一麦のインタビュー記事が載っている。デビュー七年後になる佐伯の簡単な紹介記事だが、花園敏というライターは東京から当時佐伯が住んでいた茨城まで行ったようだ。ちなみに佐伯が当時住ん…

創作雑記12 「人物が勝手に動き出す」の是非

小説の創作についてたまに見聞きするのは、作家が作品に深く没入すると登場人物が勝手に動き出す、といったことで、それは特に小説を書かない人からはしばしば羨望まじりに感心されるし、小説を書く人の中にもそういう事態を創作の醍醐味と思っている人がい…

「電気工小説」

「新潮」1990年11月号に、島弘之による佐伯一麦『ショート・サーキット』(福武書店)の書評「天職と天命の証しを求めて」が載っている。 何ということはない、単行本に収録された数篇の短篇についてのごく簡単な書評を一ページにまとめただけで、書評という…

クリエイティブは仁術か、算術か

以前、このブログで「仁術と算術と。」という記事を書いて、「医は仁術」とか「医は算術」とかいってどちらが医療の本質なのかという話をするのは医療以外の仕事にも当てはまるのではないか、と書いた。 最近、そのことを再び考えさせられる機会があった。そ…

伝記研究は探偵行為

ある小説家の研究をしているのだが、最近、事実追究の取り組みがだんだん探偵のようになってきた。。 私がやっているのは伝記的な研究で、その小説家が住んでいた場所、作品に出てきた街などを、当人の生い立ちを辿りつつ、それと結びつけていくもの。つまり…

知識資本

資本主義について勉強している。資本とか資産とか財産というのは、上手く使えばそれ自体を増殖させることができるようだ。ただ私は、資産や財産を単に「金」と結びつけて考えるのが苦手というか嫌いで(それを反省していま勉強しているのだが…)、こつこつ勤…

美談と恨み節

以前、元デザイナーのある人から、自分は先輩デザイナーに鍛えられて成長した、今もその先輩を尊敬している、といった話をされた。その話を聞いて私は、ああこの人とその先輩は相性が良かったんだな、と思った。 先輩に鍛えられて成長した、といった思い出話…

佐伯一麦と島田雅彦の共通点

もともと佐伯一麦関連の本として手に取った島田雅彦『君が異端だった頃』(集英社、2019年)だが、読み進めていくうち、年齢が近い佐伯と島田には色んな共通点があることに気づいた。 まず二人ともクラシックが好きである。『君が異端だった頃』にはブルック…

勉強と学問

最近、勉強と学問の違いって何かな、と考える機会があった。ある学習塾を訪ね、その授業の仕方も見せてもらったことがきっかけだ。学習塾は一般に、知識とか問題の解き方とかを受験の対策として子供に授ける。まさにそれをしている様子を見て、「これは勉強…