杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

紫式部は「こじらせ女子」だった。

先日放送された教育テレビ「先人たちの底力 知恵泉」の紫式部の回は、紫式部が「こじらせ女子」だった、という内容。しかし、紫式部はこじらせまくっていたにも関わらず、そこからきちんと自己肯定をしていったという。 私は『紫式部日記』やそのマンガ化し…

「最後の文士」

『榊原和夫の現代作家写真館』(公募ガイド社、1995年)は現代作家の肖像や書斎を撮った本で、榊原による作家への「取材NOTE」の他、一部の作家から小説家志望者向けに書かれた短文が載っている面白い本だ。 その中に八木義德の記事があるのだが、八木を紹介…

ディケンズの『骨董屋』

アメリカ探偵作家クラブ著、ローレンス・トリート編『ミステリーの書き方』(講談社文庫、1998年)の第17章「サスペンス」(リチャード・マーチン・スターン執筆)が面白い。納得させられるところが多いのだ。 ミステリー、冒険物、ラブ・ストーリー、純文学…

創作雑記8 構想段階が一番面白い

たしか宮崎駿が「(自分は)映画の奴隷」とか「構想を立ててる時が一番面白い」とか言っていたが、まさにそうだと思う。 旅程を組むのが楽しいように、小説も映画もどんな話にしようかという構想を立てている時間はとても楽しい。言わば世界をスケッチするよ…

文体について

宮原昭夫の『増補新版 書く人はここで躓く!』(河出書房新社、2016年)には、以前は、文学とは文体のことで、文体さえちゃんとしていれば内容は二の次だという論調だった、文学に目覚めた人間はまず自分の文体を作らなくてはならなかった、などと書かれてい…

創作雑記7 真実か面白さか

「真善美」という言葉があるが、「真」は客観的事実、「美」は面白さだと思う。では「善」は何かというと、宗教的あるいは政治的な正しさ、だろうか。 人と雑談していて感じるのは、多くの人は「真」になど興味がなく、話の内容が「美」である場合に興味を示…

デイナ・ライオンの言葉

「ミステリー作家が押さえておくべき最も重要な点」として、デイナ・ライオンがこんなことを述べている。長いが引用する。 自分の行き先を知っておかなければいけないのだ。ニューヨークにいるあなたが、ある特定の日までにサンフランシスコに行くことになっ…

創作雑記6 小説は風景に辿り着く

抽象的なタイトルだが、小説というのは、ストーリーを進めた末にどう終わるかというと、何らかの風景に辿り着くのではないか、という漠然としたイメージを、小説を書く過程で抱いたのだ。 小説が終われば主人公の物語が全部終わるわけではない。あるいは小説…

書くものがあるかどうか

現役のライターや、かつてライターをやって現在は編集者になっている人などと話していると、よく出る話題がある。お前はこれからどうしたいのか、ライターをやっている現在の立場をどう変えていきたいか、といった話題だ。つまりキャリアプランに関すること…

事実と本物らしさ

実体験を書けばそれだけでオリジナリティとリアリティを獲得できる、と言っていた人がいて、たしかにそうだなぁと思った。ところで、実体験を書くのは実在する場所や人物を書くことにつながるわけだが、では小説に実在の人物や企業の名を書いていいのかとい…

『福武書店30年史』

1987年に出た福武書店の社史『福武書店30年史』を読む機会があったが、ここは佐伯一麦と縁が深い「海燕」を出していた出版社なので、興味深かった。 奥付を見て驚いたのは、この本は1987年(昭和62年)に第一刷が出ていて、1990年(平成2年)に第二刷が出て…

芭蕉終焉の地

大阪市中央区久太郎町に松尾芭蕉の終焉の地を示す碑を見つけた。 此附近芭蕉翁終焉ノ地ト伝フ とあるので(私は「…終焉」までしか読めなかったが、ネットで調べたらその後に「ノ地ト伝フ」と続くらしいのが分かった)、本当の終焉の場所はこの近くである、と…

三遊亭圓生『噺のまくら』

先日、六代目三遊亭圓生の『噺のまくら』(朝日文庫、1987年)をざっと読んだのだが、これが滅法面白く、これは一気に全部読んでしまわず折に触れて読みたいところを拾い読みするやり方で読み続けていこうと思った。 この本は、本番の落語が始まる前の短い話…

脳疲れ

最近、脳の疲れがひどい。。 ほとんど一日中、頭の筋肉が突っ張っているのではないかと思うくらいの状態で、微かな頭痛もある。回遊魚や鳥の肉には疲労回復の効果があるというイミダペプチドが含まれていると聞き、積極的に食べるようにしているのだが、あま…

吉田修一と「パーク ハイアット 東京」

ANAの機内誌「翼の王国」10月号(603号)の吉田修一「空の冒険」第120回は、「ゴカンヲシゲキスルバショ」というタイトルである。 リゾート地で重要なのは五感を刺激してくれるかどうかだが、東京のど真ん中にもそういう場所があるとして、新宿の「パーク ハ…

「いつか・あそこ」と「いま・ここ」

ワナビは「いつか・あそこ」を夢見ている。「あそこ」とは比喩で、具体的な場所ではなく、まだ自分はなれていない職業や立場のことだ(もちろん下ネタじゃない)。いつか俺は作家になる、ミュージシャンになる、俳優になる…などなど。しかし、これが長いこと…

上方落語寄席発祥の地

大阪市中央区の久太郎町の方へ行く用事があったので「上方落語寄席発祥の地」の碑を見た。 これは、「坐摩神社(いかすりじんじゃ)」という神社の境内にある。そこに上方落語の最初の寄席が建てられたのだそうだ。坐摩神社があるのは大阪メトロ「本町」駅か…

小説は小説、年譜は年譜。

佐伯一麦の随筆集『とりどりの円を描く』(日本経済新聞出版社、2014年)に、「年譜を読む」と「続・年譜を読む」という二つの短い文章がある。 これらは山形新聞夕刊に2005年8月9日と23日に掲載されたもので、佐伯の年譜に対する考えが述べられている。 「…

漱石ブランド

佐伯一麦の書いたものをあれこれ読んでいて、佐伯が岩波書店の『漱石全集』の月報26(第二十四巻、1997年)に書いた「拝啓 夏目漱石様」を読んだ。 これは佐伯から漱石へ宛てた手紙、という形を取った奇妙な書き方の随筆だが、中身は、自分は漱石の書簡を小…

船と船員

ある人と会社での働き方の話をしていて、ちょっと考えた。その人は、会社経営、運営において最も重視しなくてはならないのは社員のモチベーションだと言っていて、その話しぶりからすると、会社は社員がモチベーションを維持向上できるようにしていく義務が…

佐伯一麦の『蜘蛛の巣アンテナ』

古書店で佐伯一麦『蜘蛛の巣アンテナ』(講談社、1998年)を入手したのだが、これは佐伯文学に親しむ者にとってはけっこう重要な一冊なのではないかと思う。 まずこれは佐伯の第一エッセイ集である。さらに、佐伯の現在の妻である草木染め作家の神田美穂が装…

ヘッセの毒

佐伯一麦の『月を見あげて 第三集』(河北新報出版センター、2015年)の「ヘッセの故郷」には、佐伯がヘッセの自伝小説『車輪の下』を読んで「ヘッセの毒にもろに当たってしまった」経験が書かれている。 佐伯は中学一年の時に読書感想文の課題図書で『車輪…

課題の分離

アドラーの心理学の本は読んだことがないが、アドラーは「課題の分離」ということを言っているようで、自分が対処するべき課題と他人が対処するべき課題は明確に分けるべき、という考え方らしい。例えば、自分が会社を辞めると言った時、良い人材が不足して…

「木を接ぐ」の自筆原稿写真

榊原和夫『榊原和夫の現代作家写真館』(公募ガイド社、1995年)は、榊原が撮った作家五十五人の写真と共に、作家に取材したメモが添えられているシンプルな本。「あとがき」には、この企画は「公募ガイド」1988年8月号から連載が始まった、とあるので、かな…

「キャリアドリフト」と物書き

「キャリアドリフト」という言葉があるのを最近知った。ビジネスパーソンのキャリアに関する考え方で、その意味を知ると、物書き志望者などにもプラスになる言葉のように思える。 「キャリアドリフト」とは、自分のキャリア(経歴)について大きな方向性を定…

萩原朔太郎と鯨波

先日、新潟県柏崎市を訪ねたのだが、柏崎アクアパークというスポーツ施設の敷地内に萩原朔太郎の詩「海水旅館」の詩碑があった。 「北陸新幹線で行こう!北陸・信越観光ナビ」に、詩碑の除幕式が行われたという新潟日報の過去記事が載っている。朔太郎は大正…

アンコンシャス・バイアス

漱石の『こころ』の主題が「無意識の偽善(アンコンシャス・ヒポクリシー)」だというのは、以前どこかで読んで知っていたが、企業人事の世界では「アンコンシャス・バイアス」という言葉があるようだ。最近知った。 「無意識の偏見」ないし「思い込み」、と…

エニアグラム

池上彰監修『やりたい仕事がある!』(小学館、2005年)は、世の中の仕事741種類について、その概要と就業の仕方が書かれた本。なにせ仕事の種類が多いので、本も700ページ近くある。 「はじめに」には「『サラリーマン』にならないために」という池上さんの…

板橋区立郷土資料館「ムラの世界」見納め

板橋区立郷土資料館がリニューアルのため休館するというので、見に行った。9月1日まで開催していた企画展は「郷土資料館、50年の展示」という、過去の展示の振り返りだ。一方、一階で常設展示されているジオラマを使った複合演出「ムラの世界」などがリニュ…

佐伯一麦のワナビへの言葉

佐伯一麦は『榊原和夫の現代作家写真館』(公募ガイド社、1995年)に「作家をめざす君に」という随筆を寄せている。 『榊原和夫の現代作家写真館』は、現代作家五十五人の写真と、その中の複数の作家が文学志向者に贈ったメッセージを集めたものになっている…