杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

2019-07-01から1ヶ月間の記事一覧

創作雑記4

小説を書き続けて十五年以上が経つが(処女作を書いたのはもっと前)、どうにも克服しがたい悪癖というか難関がある。期限を設けずだらだら書き続けてしまい、出来映えに満足できないまま直して直して直し続けてついに完成させられず挫折する、というもの。 …

佐伯一麦と川

『川筋物語』は未読なのだが、このインタビューは面白い。それにしても、単一の川のホームページというものがあるんだな…と思った。私は荒川から遠からぬ場所に住んでいるが、荒川のホームページはないようだ。 たしかに佐伯一麦の小説には川がたくさん出て…

消費生活か生産生活か

ロバート・キヨサキ『金持ち父さん貧乏父さん』(白根美保子訳、筑摩書房、2013年)を読んで、漠然とながら思ったことがある。それは、自分の収入を消費に回すか生産に回すかで、やがて人生が大きく変わってくるだろうということだ。 この本は、金持ちは働い…

佐伯一麦と山田詠美

山田詠美『ひざまずいて足をお舐め』(新潮文庫、1991年)の佐伯一麦による解説を読むと、1985、6年頃、当時二十代だった若手作家や批評家、編集者たちで行った箱根温泉への一泊旅行に二人が参加し、それが初対面だったことが分かる。なお二瓶浩明による佐伯…

10000件突破

このブログの総アクセス件数が一万件を超えた。桁が一つ増えたことはちょっと嬉しかったが、開設して一年と五か月ほど過ぎてようやく一万件に達したのが喜ぶべきことなのかどうか、分からない。。 記事の最近の傾向と言えば、自分が「思っていること」を書く…

創作雑記3

私小説を書いていてしばしば陥りそうになる陥穽がある。過去の自分を美化して書いてしまうことだ。 自分の情けない過去を書くのは辛いものだ。しかし実際にその箇所を書く時、背景には立派な思想があったとか、実力はあったものの不慮の事態が起きて敗北した…

佐伯一麦と映画2

仙台市で唯一の地元資本の映画館だった「仙台セントラルホール」は、2018年6月30日の営業を最後に閉館した。経営していたのはセントラル劇場という合同会社だが、1979年の開館以来、経営者は三度入れ替わっていたそうだ(「仙台唯一の地元資本映画館「仙台セ…

根無し草

原武史の『レッドアローとスターハウス』(新潮文庫、2015年)の第十三章「『ひばりヶ丘』から『滝山』へⅠ」に、元久留米町長の藤井顕孝の言葉を引用している箇所がある。 団地の人は、別に久留米町がいい。久留米町に住みたい。といって移住してきた方とは…

勤めながら創作をするには…

庄野潤三の随筆「文学を志す人々へ」が面白い。これは『庄野潤三全集 第十巻』(講談社、1974年)所収で、初出は「群像」1962年8月号。佐伯一麦は川崎市多摩区の稲田堤のアパートに住みながら「木を接ぐ」を書いていた頃、休日には自転車を飛ばして多摩区の…

映画『タバコ・ロード』を観た。

ジョン・フォードの作品ということでいつか観たいと思っていた『タバコ・ロード』(1941年)が放送されたので録画し、観た。 コールドウェルの原作で、演劇版はロングランを記録したという作品の映画版である。ぴあの『シネマクラブ 外国映画編 2002-2003』…

一人でこつこつ調べ物してるとどよーんと暗くて寒い孤独感に苛まれることがときどきある。書き物をしている時もそうで、誰からも見向きもされない仕事をしこしこやってると、どうしようもなく辛くなってくるのだ。 「俺は孤独さ」という「ファッション孤独」…

佐伯一麦と庄野潤三

庄野潤三の講談社文芸文庫『野菜讃歌』(2010年)は、庄野の死後刊行された。解説を担当したのは佐伯一麦で、このたび、それに関連する佐伯の過去の書き物をいくつか探索したのだが、これが面白かった。 佐伯の解説「反響の余韻」は、随想と庄野潤三論が混ざ…

「長老作家」と「小説家」

佐伯一麦『読むクラシック』(集英社新書、2001年)に「長老作家の葬儀に」という章がある。これは、一人の「長老作家」が亡くなり、その人を慕う編集者や小説家が葬儀を行った、という内容なのだが、実名が一つも書かれていないので長老作家や編集者や小説…

「純文学にこの人あり」

「新刊ニュース」編集部『本屋でぼくの本を見た 作家デビュー物語』(1996年)の島田雅彦「ハッタリと『悲愴』」には、島田がデビュー作『優しいサヨクのための嬉遊曲』を「海燕」に持ち込んだ経緯が書かれている。 島田が『優しいサヨクのための嬉遊曲』を…

佐伯一麦の「青空と塋窟」

佐伯一麦『読むクラシック』(集英社新書、2001年)は、佐伯自身がクラシック音楽との関わりについて、自らの生い立ちと共に語ったもの。聖パウロ女子修道会の月刊誌「あけぼの」の1997年1月号から2000年12月号まで、「楽に寄せて」というタイトルで連載した…

「本当の文士」

寺田博の随筆集『昼間の酒宴』(小沢書店、1997年)の「『狂人日記』まで」は、「別冊・話の特集」(1989年7月)に掲載されたもの。色川武大との出会いから、『狂人日記』執筆、その後の色川の死に至るまでの交わりを書いている。ごく短くかいつまんでいるだ…

「意味ありげ」

朝日新聞朝刊の鷲田清一「折々のことば」7月2日は、里見弴の言葉を取り上げている。 今の若い人たちは、「意味」より、「意味ありげ」を好いているのだ 戦前の昭和に書かれた随筆「二、三の神経」からの引用だが、二十一世紀にライターとして仕事をしている…

佐伯一麦と徳田秋声

佐伯一麦は高校二年の秋に金沢を旅行している。当時(今もそうかも知れないが)仙台一高には修学旅行がなかったらしく、佐伯は前期試験後の試験休みに級友と訪れたらしい。 その時、佐伯は仲間から離れて卯辰山にある徳田秋声の文学碑も訪れている。しかし佐…

毎日書くこと7

あるテレビ番組で、金融工学は実験ができない、どんな理論を考えついたとしても、実際の金融市場で取引をしてみないとその有効性を知ることができない、と言われていた。なるほど、例えば投資を覚えるには実際に投資をやってみなくてはならない、と言う人も…

佐伯一麦と佐治敬三

「新潮」1996年9月号は創刊1100号記念特大号である。 ほとんど全体が特集になっているのだが、巻頭には創刊1100号記念グラビア「この人と私」が載っている。これは、芸能人などの有名人と作家のツーショットを多数掲載したもので、作家による相手への思いが…

作家は自意識過剰か

昨日の記事で話題にした山田詠美対談集『メン アット ワーク』(幻冬舎文庫、2001年)の佐伯一麦との対談だが、前半に面白い箇所がある。 二人の話題になっている山田の『アニマル・ロジック』は書き下ろし長篇なのだが、長篇を書くのは飽きる、と山田が言う…

佐伯一麦と映画

山田詠美の対談集『メン アット ワーク』(幻冬舎文庫、2001年)の佐伯一麦との対談「シンプルで透明なところへ」を読んだ。 この対談集には他に、石原慎太郎、伊集院静、井上陽水、大岡玲、大沢在昌、奥泉光、京極夏彦、団鬼六、西木正明、原田宗典、水上勉…

キノブックス…

キノブックス『猫なんて!』(2016年)は、作家による猫エッセイ(漫画も含む)47篇を編んだもので、佐伯一麦「猫の叫びに」が収められている。 この随筆は、佐伯の『聴くクラシック』(集英社新書、2001年)に収録された文章の再録で、夜に猫の叫びが聞こえ…

佐伯一麦と『狂人日記』

色川武大の『狂人日記』(講談社文芸文庫、2004年)の解説は佐伯一麦が執筆している。 佐伯は十八歳の時、神楽坂で色川武大を見たという。大卒と偽って週刊誌のフリーライターをやっていて、その編集者に昼食をご馳走になった後、坂を上ってきた色川に編集者…

ワナビをこじらせて

雨宮まみの『女子をこじらせて』(ポット出版、2011年)の巻末に漫画家・久保ミツロウとの対談が収録されていて、「生まれや育ちのせいじゃなく、こじらせたのは結局自分」という見出しの部分を読んで、泣きそうになった。 雨宮 (前略)自分のまわりでこじ…

やっぱり病気なのか…

相対性理論のストーブを触る例えじゃないが、時間の感じ方が変わることってあると思う。 今までで最も時間の流れがゆっくりだと感じたのは、日本映画学校の一年生の時だ。あの時は映画を我が物にしてやろうと異常なほど躍起になっていて、言うなればかなり高…

収益の柱

経営者の話によく出てくるのが、我が社の収益の柱は〇〇、△△、▽▽だ、といった事業ポートフォリオに関する話題だ。もちろん三本柱でなく四本、五本の場合もあるし二本の時もある。 今期、〇〇は調子が良くて収益を伸ばしたが、△△はマイナス、▽▽は横ばいで、〇…

勉強のための勉強は価値がない。

二十歳になる頃からずっと勉強してきた。学校の勉強ではなく、映画や文学に関することを学んだ。作品に多く触れ、またその世界の歴史や東西の古典にも眼を通し、また自らも作って、藝術作品として上等になるよう飽かず取り組んできた。 これは、自分自身では…

いわゆる「ブレる」人

指揮命令系統の上に立つ人の責任は重い。その人が出した指示によって、下にいる人が実際に動くからだ。だから私は、組織を束ねるリーダーが、いわゆる「ブレる」ことはあってはならないし、協力業者に発注するクライアントが支離滅裂な一貫性のない指示を出…

企業小説

松本清張『風紋』(光文社文庫、2018年)を読んでいる。 食品会社に勤める主人公が社史編纂の業務に従事することになり、その制作を進めるが、その傍らで自社商品の不穏な情報が浮上する、という企業サスペンス小説。 この小説を読んでみたいと思ったのは、…