杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

2019-01-01から1ヶ月間の記事一覧

愚かであること

スティーブ・ジョブズはスタンフォード大学でのスピーチで、最後に“Stay hungry. Stay foolish.”と言ったそうな。これはジョブズの名言として有名な言葉で、単純に訳すと「ハングリーであれ。愚かであれ。」といった意味になるそうだ。 私はこの言葉はかなり…

「スポイル」の思い出

「スポイル(spoil)」は、甘やかして駄目にしてしまうことで、蔑ろにするのとは意味が違う。「すべからく」「敷居が高い」などと同様、そこそこ語彙力がある人が使い、なおかつ誤用しやすい言葉ではないかと思う。私は最近、誤用に接した。 私は「スポイル…

事実と感情

『ナニワ金融道』の作者・青木雄二の『ナニワ資本論』(朝日文庫、2001年)は、古書店でたまたま見つけて購入したと思う。 この本で最も印象に残っているのは最後の「「在る」と「思う」の関係」で、「存在(在る)」と「意識(思う)」をはっきり区別して物…

ボツ作品が書き手を前進させる

私はWEB小説をほとんど読んだことがないが、田島隆雄『読者の心をつかむ WEB小説ヒットの方程式』(幻冬舎、2016年)を読んで、WEB小説の作家の小説に向かう姿勢にけっこう頷かされる。こないだは『加賀100万石に仕えることになった』という作品を書いたシム…

『板橋マニア』が面白い。

板橋区のガイド本『板橋マニア』(フリックスタジオ、2018年)を、家で時間がある時にぱらぱら読んでいる。要するに板橋区のガイド本なのだが、書名の通りけっこう深く突っ込んだ内容になっており、面白い。 ここのところ、地元に興味を持ち、もっと知りたい…

一行でも、一文でも。

かつて知人が、やや特殊な文学史をまとめようと筆を起こし、一日に一行でも、一文でも書く、と意気込んでいた。今はその知人とのつながりはないが、その文学史は一冊にまとめられたようで、アマゾンでも売っている。すばらしい。こんど買おう。 そのかつての…

小説「名前のない手記」(19)

連載19回目。 →「名前のない手記」(19) →「名前のない手記」(18) →「名前のない手記」(17) →「名前のない手記」(16) →「名前のない手記」(15) →「名前のない手記」(14) →「名前のない手記」(13) →「名前のない手記」(12) →「名前のない手記…

イカラズ、キバラズ、イイ子ブラズ

精神論が嫌い、だからというわけではないが、私は「気張らない」ことを大事にしている。 気張ってしまうとどうしても、無理を押してやろうとする心境になり、そこには多くの場合、精神論が入り込んでくるからだ。 根性とか気合いでどうにかなるのは一瞬とか…

佐伯一麦と私小説

「国文学 解釈と観賞」961(2011年6月号)は「私小説のポストモダン」という特集を組んでおり、中で佐伯一麦が「私小説と私小説家の間」という随筆を寄稿している。 これは、私小説を書いた過去の作家による複数の私小説言説を引きつつ、私小説と事実および…

「日々新面目あるべし」

書家・歌人の會津八一は、弟子たちのために学問の心得「学規」を書いたそうだ。八一が揮毫した「学規」は早稲田大学の會津八一記念博物館に展示されているらしいので、こんど見てみたい。 「学規」の最後には、こうある。 日々新面目あるべし 新面目(しんめ…

300件突破

2019年に入って間もなく、ブログ記事が300を超えた。以前、ブログを書いていた時は一週間に一記事書く程度だったので、我ながら進歩したなと思う。 今年は他人のブログももっと読んでみたいと思っているが、ブログを継続するのを難儀に感じる人は少なくない…

書いて書いて書きまくる

ライターの仕事についてのインタビューを受けることになり、学生時代とこれまでの経歴を振り返った。 私は映画学校を卒業後、タウン誌の会社に入ってからライターを仕事にするようになった。ライター歴は十三年を経過して現在十四年目である。インタビューや…

書くに値する街

ウィリアム・フォークナー『アブサロム、アブサロム!』(藤平育子訳、岩波文庫、2011年)の藤平による「解説『アブサロム、アブサロム!』への招待」の冒頭には、ヨクナパトーファ郡ジェファソンを舞台にした最初の小説『サートリス』について、フォークナ…

小説「名前のない手記」(18)

連載18回目。 →「名前のない手記」(18) →「名前のない手記」(17) →「名前のない手記」(16) →「名前のない手記」(15) →「名前のない手記」(14) →「名前のない手記」(13) →「名前のない手記」(12) →「名前のない手記」(11) →「名前のない手記…

若くしてデビューできないこと

文藝誌や雑誌の古いバックナンバーを取り寄せて調べ物をすることがよくある。目当ての記事をコピーするのはもちろんだが、ついでにパラパラ捲ってみて面白い記事があれば、それもコピーするようにしている。 こないだコピーしたのは「en-taxi」vol.44(2015 …

物書きと「職業」

川口則弘の「作家になりやすい「職業」はなにか?」(「文學界」2018年12月号特集「書くことを「仕事」にする」)がやたら面白く、勉強にもなった。これは直木賞と芥川賞の受賞者の職業を紹介したものだが、新聞記者の受賞者として山崎豊子や司馬遼太郎、そ…

山崎豊子と船場

恥ずかしながら私は山崎豊子作品は『花のれん』(新潮文庫、1961年)しか読んだことがないはずだが、こないだ書店で新潮文庫の『山崎豊子読本』(2018年)を見つけ、面白そうだったので買った。そうしたら本当に、山崎作品に馴染みの薄い私でも滅法面白いの…

ライターの恥

私がライターとして行う取材の中には、普段は関わりの薄い分野の、なおかつ高度に専門的な取り組みについて伺うことが、しばしばある。 しかも単なるインタビューでなく、大人数を集めての座談会を仕切ることなどがあり、そういう仕事が回ってくるのは、正直…

薪の割り方

アニー・ディラードの『本を書く』(パピルス、1996年)は、松岡正剛の「千夜千冊」で知った(717夜)。 本書は比喩表現と抽象的な書き方が多いが、文章術、作家としての心得指南の本としてはかなり優れており、文章の「極意」のようなものが述べられている…

関わってはいけない人

「週刊文春」2019年1月3日/10日新春特大号は、昨年末に買った。目当ては、ライターの田村栄治による、フォトジャーナリストの広河隆一が複数の女性にセックスを要求したりヌード撮影をしたりしたという記事だった。 この記事がどれくらい本当なのか、私は知…

小説「名前のない手記」(17)

連載17回目。 →「名前のない手記」(17) →「名前のない手記」(16) →「名前のない手記」(15) →「名前のない手記」(14) →「名前のない手記」(13) →「名前のない手記」(12) →「名前のない手記」(11) →「名前のない手記」(10) →「名前のない手記…

昭和ノスタルジー

以前、企業の人材開発・組織開発を専門とする大学の先生が、インタビューで「昭和をアンインストールせよ」みたいなことを言っていた。 長い間かけて学習してきた、長時間労働を是とする考え方から脱却せよ、ということなのだが、先生が言うには、長時間労働…

実在のテキストを題材にした小説

小説などの実在のテキストを題材にした小説は多い。しかし私が過去に読んだものといえば『或る「小倉日記」伝』、『キルプの軍団』くらいか(もっとあるだろうけど覚えてない)。 大江健三郎は『キルプの軍団』に限らず、いくつもの作品で実在のテキストを題…

日記の面白さ

新潮文庫『山崎豊子読本』には「山崎豊子「戦時下の日記」」という章がある。私は特に日記を読むのが好きなわけではなかったが、これを読んでみて改めて日記の面白さを感じている。 「戦時下の日記」は文字通り第二次大戦中の山崎が、いつ空襲が来るとも分か…

テンプレ雑感

田島隆雄『読者の心をつかむ WEB小説ヒットの方程式』(幻冬舎、2016年)を読んでいる。小説投稿サイト「小説家になろう」に作品を投稿し、書籍化された作家へのインタビューが中心の本。まだ全部読んでいないが、作家たちへのインタビューの中で小説の「テ…

『ふしぎの国のアリス』と『ONE PIECE』

こないだディズニーの『ふしぎの国のアリス』を観たのだが、途中から、こりゃ『ONE PIECE』のビッグ・マムの「万国(トットランド)」だなと思った。 最初にピンと来たのは、双子のディーとダムが話をする時、太陽と月になるのだが、その表情がどこかビッグ…

書くことでしか前進できない

「文學界」2018年12月号の特集「書くことを「仕事」にする」に、エッセイスト・犬山紙子の寄稿「書くことを仕事にしたいと言えなかった日々から」がある。 犬山は1981年生まれで就職氷河期に当たっており、夢に冷めている周囲の人たちに裏で揶揄されまいと、…

小説「名前のない手記」(16)

連載16回目。 →「名前のない手記」(16) →「名前のない手記」(15) →「名前のない手記」(14) →「名前のない手記」(13) →「名前のない手記」(12) →「名前のない手記」(11) →「名前のない手記」(10) →「名前のない手記」(9) →「名前のない手記」…

佐伯一麦の博物学的嗜好

以前、佐伯一麦の仕事机には電鍵が置いてあることをこのブログで書いたが、では抽斗には何があるかというと、「真空管」がしまってある。そのことは夏葉社の『冬の本』(2012年)という本で佐伯自身が書いている。 この本は、「本を愛する84人」から、「冬の…

人を陶酔させる文章

最近、あるライターの書いた文章が「酔わせる」と評判だった。 題材が酒に関係のある事柄だったので、それに引っ掛けての「酔わせる」だったのかもしれない。しかし私もその文章を読んで、たしかに口当たりの良さを感じたし、読みやすく分かりやすい文章だっ…