杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

2018-08-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「アルミニウム」(5)

連載第5回。 →「アルミニウム」(5) →「アルミニウム」(4) →「アルミニウム」(3) →「アルミニウム」(2) →「アルミニウム」(1)

年齢と想像力と私小説

中野孝次の『対談 小説作法(さくほう)』(文藝春秋、1983年)の永井龍男の回が面白い。 恥ずかしながら私は永井の作品を読んだことがないため、作品に言及する箇所は飛ばして読んでいるのだが、それ以外の小説に対する見解とか、生い立ちに関するエピソー…

伝説は話半分に

かつてライターとして最前線で活躍し、今は現場を退きオフィスで編集業務をやっている人は少なくない。 しかし私の知るそういう人の中に、自分の現役時代の活躍をめっぽう誇らしげに話す人がいる。自分は月に二十本くらい取材に行くのが普通だった、メモもま…

意識は高いが実績はなし

蛯谷敏『爆速経営 新生ヤフーの500日』(日経BP社、2013年)を読んだ。ヤフーの宮坂学前社長が、2013年の社長就任の前後から、ヤフーをどのように改革するかを考え、実行していったかを取材したビジネス本。 印象に残った、というより考えさせられたのは、Ch…

アウトプットはごくわずか

取材原稿を書く場合、私はよほど長いものでなければだいたい取材当日か翌日には書き上げ、どれだけ立て込んでも一週間以内には必ず仕上げるようにしている。人からは早いですねと言われるが、新聞記者などからすると常識なんだろうなと思う。 それについて先…

臆病ライター

以前、海中工事を行うある会社の社長にインタビューした。叩き上げで社員想いのすばらしい社長で、話が一つ一つ、実体験と思索を経た、確信に満ちたもので私は多くのことを学ばせてもらったと思っている。 例えば、海中工事業者の職人は臆病な人のほうが向い…

二元論で押しまくる

岩田慶治の『自分からの自由 からだ・こころ・たましい』(講談社現代新書、1988年)は、杉浦康平の『かたち誕生』(日本放送出版協会、1997年)で紹介されていた。『かたち誕生』は松岡正剛さんの書評サイト「千夜千冊」で知ったが、同サイトには岩田の『草…

小説「アルミニウム」(4)

連載第4回。 →「アルミニウム」(4) →「アルミニウム」(3) →「アルミニウム」(2) →「アルミニウム」(1)

大阪ガスビルディング

用事があって大阪に出掛けたので淀屋橋で降車し大阪ガスの本社ビル「大阪ガスビルディング」を撮影。 「ガスビル」と通称されているこのビルは、1933年竣工時の外観を改修しつつ残している。1945年の大阪大空襲で焼失せず、2006年の大規模改修でも当初と同じ…

三田誠広の小説教室

集英社文庫の三田誠広「ワセダ大学小説教室」シリーズは、元は「小説創作教室」という、三田が1994年に早稲田大学で行った授業の講義録の三部作である。三冊とも、読みやすく分かりやすい良書だと思う。特に三田の言う「深くておいしい」にはなるほどと思わ…

自己陶酔家か自意識過剰か

小説家とは、ドキドキするような自分の秘密について語らずにいられぬ人間である。さらに、いったんそれを語り始めると、どのようにでも図々しくなり語りつづけて倦まない人間なのである。 大江健三郎『私という小説家の作り方』(新潮文庫、2001年)の八章「…

旅先ではブックオフへ

仕事の出張などで地方都市に行くと、ブックオフに入るようにしている。もちろん他に古書店があればそこにも入る。 「古書は生もの」が私の持論で、出会ったその場で買わなくては二度と買えないことになる可能性があると考えている。だから、旅先のブックオフ…

自分を責めるのもほどほどに。

夏の休暇が終わる。 今年は有休休暇も使って九連休にした。五月の大型連休ほど自分の時間を持てなかったが、やりたいことをいくつか、小さい歩みながら進めることができたのは良かった。 何もしないとだらけてしまうので、この連休にやるべきことをtodoリス…

悪縁は良縁を駆逐する

スポーツには関心が薄いが、今朝の新聞に、例の日大アメフト部の悪質タックル問題で、タックルをした学生本人が部に復帰したい意向を示したというニュースが出ていて、良かったと思った。 この問題について、報じられている以上に詳しいことは知らない。しか…

小説「アルミニウム」(3)

連載第3回。 →「アルミニウム」(3)→「アルミニウム」(2)→「アルミニウム」(1)

氷山の一角

竹中労の『ルポライター事始』を読んだのは十年近く前だと思うが、強く記憶している言葉がいくつかある。その一つが「“醜聞”は、つねに氷山の一角でなくてはならない」というもの。 これは、当時の藝能記事の多くが、取り上げる相手のことをろくに調べもせず…

主題を出現させるには

教育テレビの「昔話法廷」という番組を見ていたら、ふと、以前読んだ三島由紀夫の『小説読本』(中央公論新社、2010年)の文章を思い出した。 番組は、多くの人が知っている定番の昔話や童話を題材に、悪役を倒した主人公が裁判にかけられ、悪役は本当に悪か…

「どうしても書き上げたい小説」

佐伯一麦の『ア・ルース・ボーイ』は、「新潮」1991年4月号に発表され、第四回三島由紀夫賞を受賞した。「新潮」7月号には「受賞の言葉」が載っているが、そこには「物を書き始めた十八のときから、どうしても書き上げたい小説だった」と書いてある。 二瓶浩…

山本七平『現人神の創作者たち』

山本七平『現人神の創作者たち』(ちくま文庫、2007年)は、『「空気」の研究』で知られる山本七平(1921~1991)の畢生の大作。 明治維新を引き起こし、日本人を無謀な戦争へと進ませた尊王攘夷思想、および天皇=現人神(あらひとがみ)と考える思想、その…

編集者雑感

中野孝次の対談集『対談 小説作法(さくほう)』(文藝春秋、1983年)の永井龍男との対談で、考えさせられる箇所があった。永井は1904年の生まれで、「黒い御飯」が「文藝春秋」に載ったり同人誌に参加したりしたが、1927年に文藝春秋社に入る。菊池寛や横光…

一期一会

最近、ある会社のテレビCMを見ていた時、ハッとした。 ある大手企業のCMだったのだが、その会社の社員が複数出ていて、なんとその中に、私がインタビューしたことのある人が出ていたのだ。 会ったのはたしか十年近く前で、その時点で五十歳は過ぎていると思…

小説「アルミニウム」(2)

連載第2回。 →「アルミニウム」(2) →「アルミニウム」(1)

日本語の翻訳

以前、あるライターが、お金を稼げるライターとは、日本語をよりわかりやすい日本語に変換する翻訳家だ、と言っていたのをネットで読んだ。 なるほどと思った。お金を稼げるかどうかは別として、優れたライターとは、語彙が豊富で、表現の仕方もよく知ってお…

ドラマティックな原稿

ライターの仕事をしている中で、半年に一度くらい出くわす発注者がいる。 「ドラマティックに書いてほしい」「熱く書いてほしい」「ドキドキするような原稿にしてください」 などなど、取材後ライターが原稿を書く段階になって、正確さ以上のことを期待して…

ジョージ・オーウェルの「なぜ書くか」

大江健三郎は中野孝次との対談(『対談 小説作法(さくほう)』(文藝春秋、1983年))で、自分が子供時代に身につけた生活の仕方や感じ方をそのまま持ち続けるようにしている、と言い、続けて、ジョージ・オーウェルが「なぜ書くか」という文章の中で同じよ…

中村文則『銃』の川と橋

中村文則の『銃』は第34回新潮新人賞受賞作(2002年)。この作品について、ちょっと物好きな調べ物をしてみた。 主人公は大学生の男で、ある日、自宅から歩いて行ける川の近くの芝生で男の死体を発見し、その傍らに落ちている拳銃を拾う。拳銃は主人公を非日…

第59回いたばし花火大会を見た

ちょっと遠くから見たが見応えがあった。 会場の近くにはコミミズクやハヤブサなどが棲息する「荒川戸田橋緑地生物生態園」があるし、川岸周辺にも鳥など多くの動物たちが暮らしているはずで、彼らにとってはあの爆音はさながら戦争みたいだったろうと思う。…

天才雑感

中野孝次の『対談 小説作法(さくほう)』(文藝春秋、1983年)の大江健三郎との対談の中で、大江は、自分は樹木が好きだと言い、大きい木があると触らずにいられない、と話している。続いて、 これはやはり、子供のときに森の中に育ったことと関係があると…

小説「アルミニウム」(1)

新連載はじまり! 文学同人に参加していた2011年に同人誌で発表した作品。東日本大震災を題材に書いたものだが、そういう小説の書き方は愚かなことではないかと今では思っている。 しかし不思議と、この作品、けっこう気に入っている。 連載でお届けします。…

暗闇の道のビール瓶のかけら

三島由紀夫の『小説読本』(中央公論新社、2010年)の「わが創作方法」(初出は『文学』1963年11月号)で、三島は、自分の長篇小説の創作方法の第一は「主題を発見すること」と述べている。 材料はどこにでもころがっているのである。ただ、或る時点における…