杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

2018-06-01から1ヶ月間の記事一覧

北方謙三『明るい街へ』

北方謙三『明るい街へ』(集英社文庫、1999年)は北方先生の初期作品を収めた短編集である。 先生は同人誌出身で、若い頃に大真面目に“文学”を志向していた。今でこそ中国の歴史大長編などを書く作家として認知されているが、大学生の頃は、同人雑誌に純文学…

小説「似顔絵師」(2)

連載2回目。 →小説「似顔絵師」(2) →小説「似顔絵師」(1)

団地という世界

東海テレビのドラマ「限界団地」が面白くて毎週見ている。佐野史郎扮する主人公が自分にとって邪魔な人間を次から次へと消していく(ように見える)話で、テンポが良く飽きがこない。 以前、阪本順治監督の映画『団地』(2016年)を観たが、やはり「団地」と…

佐伯一麦と「木を接ぐ」と毛筆

「新潮」2013年10月号の佐伯一麦と島田雅彦の対談「文学渡世三十年」は、デビュー時期が一年違いの二人が語り合う面白い記事である。二人はデビュー時期が近いというだけでなく、川崎市の稲田堤に在住経験があるという点でも共通している。 さて対談冒頭で二…

フリーランスについて

クラウドソーシングのランサーズがフリーランスの実態調査結果の2018年版を出した。ちょっと前の記事だが興味があったので読んだ。このデータによると、フリーランスの人口は市場と共に今後拡大していくようだ。 私の知人に、会社に属していないフリーランス…

こじらせワナビの回顧4

私はすでにこじらせている物書きワナビだが、ある時から長い間、ワナビであることを周囲の人に秘密にしていた。 身近にいる人々が、物書きとか、文学全般にあまり関心がない人ばかりだし、そればかりか、そういうのを目指していると私が話すと、大笑いし、馬…

「もっともだえろ!」

今村昌平著・佐藤忠男編著の『教育者・今村昌平』(キネマ旬報社、2010年)は、1975年に横浜のスカイビルに創設された横浜放送映画専門学院と後の日本映画学校(現日本映画大学)での今村昌平の発言や寄稿や講義内容を編集した本である。私はこの学校の卒業…

「麦男」ではなかった…

以前このブログで、佐伯一麦が、「佐伯麦男(ばくだん)」というペンネームで書いた小説「木を接ぐ」で海燕新人賞を受賞したと書いた。 その裏付けとしたのは、岩波書店の『私の「貧乏物語」』(2016)に載っている佐伯の寄稿である。そこには以下のように書…

小説「似顔絵師」

2010年に同人誌で発表した作品。主人公のペシミズムは、今読むとやや幼稚な気がする。また上司の関西弁は愛知出身の私の知る限りで書いたいい加減なもので、全体に作り込みの不足が否めない。しかし私はけっこう気に入っている。 全6回。今日から連載でお届…

苦闘は続く。

高橋一清『芥川賞・直木賞をとる!』(河出文庫、2015年)は、多くの作家のデビューに立ち会った文藝春秋の元編集者による小説の書き方本である。編集者として長年作家に寄り添い、創作に関わってきた人の言葉であるだけに実に説得力があり、特に、書き手が…

復讐雑感

フジテレビのドラマ『モンテ・クリスト伯』が終わった。 デュマ・ペールの原作を読まずにドラマを先に見たのだが、ストーリー展開があまりに面白く、かねて読もう読もうと思っていはいたものの読めていなかった原作をやはり絶対に読まねばと思いを強くした。…

唐十郎とジャポニカ学習帳

私はブログとは別に、もう6年以上、手書きの日記をつけている。一時期中断していたのを再開して6年以上である。最初につけ始めたのは大学生の時だから、その時期から数えれば20年近くつけている。 日記は、再開する前はもっぱらエッセイじみたもの、自らを鼓…

ひとまず100日。

昨日、ブログ記事が100件に達した。毎日書いてきたから、ひとまず100日続けたことになる。 ブログネタを探すのはそんなに難しいことではないと思っている。私の場合、調べ物をすることが多いので、ほぼ毎日、何かしら発見があるし、執着心が強い性格ゆえに色…

映画『キャリー』を観た。

ブライアン・デ・パルマ監督『キャリー』を観た。 1976年の作品である。キングの原作を読んでから観ようと思ったが先に観ることになった。 高校の同級生たちがキャリーを陥れていく過程をもっと丁寧に説明する方が良いのではないかと思ったが、ぜんぶ観てみ…

破綻を防ぐには

小説を書き出すまでに、梗概とか設計図のようなものをどの程度まとめておくかは、けっこう色んな書き方本で触れられている。 筒井康隆の『創作の極意と掟』(講談社文庫、2017年)の「破綻」という章には、新人やワナビは書き出す前に全体の構成を固めておく…

短篇小説「二人の盗賊」

2008年にやはりテーマを与えられて書いた習作。星新一の「ボッコちゃん」などのショートショートを読んで思いついた筋だったと思う。 →短篇小説「二人の盗賊」

材料七分、腕三分

久しぶりに加藤秀俊『取材学』(中公新書、1975年)を読んだ。 奥付を見ると、2003年に私がこれを初読したことが記入してある。実はあまり内容を覚えていなかったのだが、今回ふと再読してみる気になり読んでみたら、取材をするライターの仕事について本質的…

地球が愛おしくなる写真集『地球全史』

白尾元理撮影・清川昌一解説『地球全史』(岩波書店、2012年)を読んだ。 地球の46億年の歩みを写真で見せるというとてつもない本で、撮影対象になっているのは主に世界各地の地層である。銀河系の写真を載せて地球誕生の経緯を簡単に述べ、原初の地球のマグ…

佐伯一麦の原点

2016年9月15日の毎日新聞夕刊に佐伯一麦の取材記事「私の出発点」が載っている。取材記者は鶴谷真という神戸出身の人である。 この記事によると、佐伯は五歳の頃に近所の未成年者から性的暴行を受けた。『ショート・サーキット』(講談社文芸文庫、2005年)…

映画『幕末太陽傳』を観た。

川島雄三監督『幕末太陽傳』(1957年)を観た。この作品の共同脚本と助監督を務めているのが今村昌平。 川島の代表作と言われ、やたらと評判が良くてたびたび再上映されているらしい。私の映画学校の先輩はこれを傑作だと言っていたが、落語をベースにしたド…

サンシャイン水族館

先日、サンシャイン水族館に行ってきた。もう何度も行っているが、リニューアルしてからは恐らく2回目。 けっこう混雑している中で撮影したので写真の良く撮れていない。目を引いた珍しい生き物を中心に撮ったので、ここならではのものがあまり載せられてい…

イン・メディアス・レス

『書くことについて』には、「イン・メディアス・レス」という小説作法が古来から正統的なものの一つとされてきたと書いてある。これは最近本書を再読して目に留まった語で、最近まで私はこの言葉を知らなかった。 物語を最初から語るのではなく、途中から語…

短篇小説「はかなくうつろうエプロンの色」

2008年にテーマを与えられて書いた習作。今読むとけっこう恥ずかしいが載せる。 →短篇小説「はかなくうつろうエプロンの色」

何がワナビを止めるのか?

http://www.dai46u.com/entry/wanabinoshinizama すごいワナビがいた。この人に比べたら、私のワナビっぷりなどかわいいもんだと思わせられる。つまり、私は中途半端なこじらせワナビなのである。 私は親の教育のお陰もあってか?、破滅型人間ではなく、経済…

スティーヴン・キング『書くことについて』

スティーヴン・キングの『書くことについて』(田村義進訳、小学館文庫、2013年)を再読している。やはり得ることが多い。 私の考えだと、優れた作品は出来事ではなく、つねに人物にかかわるもので終わっている。つまり人物主導ということである。ただし人物…

こじらせワナビの回顧3

テレビ番組を通して知ったのだが、私は世代的にはとても不遇な人間であるらしい。いわゆる「アラフォー・クライシス」とか「7040問題」とかいう課題に直面しているようだ。そういう実感はけっこうある。 私はいわゆる就職氷河期世代である。大学を卒業してか…

こじらせワナビの回顧2

近く、小説集を出す予定である。これは過去の作品を直して印刷する私家版、要するに自費出版なのだが、修正は大幅に行うつもりだ。もっとも、自費出版ビジネスをやる出版社に大金を出したりはしない。 それで過去に書いた物を目下修正しているところなのだが…

板橋区立熱帯環境植物館

だいたい月に一回は子供を連れて行っている板橋区立熱帯環境植物館。植物館にミニ水族館が併設されていて面白い。 土日と区立小学校の夏休み期間は小中学生が入館料タダになるので、子供がいる方にはオススメである。 訪ねた日は「ぷくぷくフグ展」をやって…

鉄は熱いうちに打て。しかし…

以前ある先輩ライターと話していた時、年下の若いライターをどう育てるか、という話題になって、先輩が、それはかなり難しいと言い、続けてこんなことを言った。 「そもそも、彼らに自ら成長しようという意志があるのかどうかが疑問」 この言葉に私は強く共…

短篇小説「知られざる肖像画」

2008年、やはりテーマを与えられて書いた短篇。いくつかの実体験を織り交ぜているが全体的にはフィクションである。 タイトルはバルザック「知られざる傑作」に触発されてつけた。けっこう気に入っている作品。 2008年には大滝秀治はまだ生きていた。 →短篇…